法務パーソン×予備試験
「本気で目指してはないけど、法務をやっている以上気にはなる。でも7法全部一からやるのはちょっと...」という方は少なくないと見受けました。
コメントもいただきましたが、費用対効果が良くない上に予備試験単体では何の資格にもならないということで、まあそりゃそういうスタンスが普通だよねという感じです。あれ俺はなんで受け始めたんだっけ(困惑)
実際勉強して思うことなのですが、そこまで予備試験の勉強はそこまで企業法務スキルに直結しません。悲しい。遠まわしにはがっつり貢献してくれるのですが、なかなか芽が出るのに時間がかかるので他の勉強したほうが手っ取り早いです。
その原因はやはり、企業法務で主に必要とされるのが民法と商法やや順位が落ちて民訴にもかかわらず、かなり優先順位の落ちる憲法・行政法・刑法・刑訴にもフルコミットしないといけないという点だと思います。(断じて法務パーソンに不要という趣旨ではない。念為)
ということで、そんな方々のニーズに合致すればいいなと思いまして、司法試験過去問のご紹介です。とっつきやすい契約法関係から引っ張ってきましたので、力試しにも知識の再確認にも是非どうぞ。
法務パーソンである皆さんはもちろん全問正解ですよね!?(無駄に煽っていくスタイル)
※問題の形式だけちょっと改変してます。内容は全く一緒です。
〔平成21年民事系第23問〕
A(東京在住)は,友人の美術品愛好家B(京都在住)が所有する複数の掛け軸のうち掛け軸「甲」を手に入れたいと考えた。そこで,AはBに対し,4月1日,そのための手紙を出し,この手紙は4月3日にBに届いた(以下これを「本件手紙」という。)。
この場合において,AB間の甲の売買契約の成否及びその時期に関する次のアからオまでの各記述のうち,正しいものはどれか。なお,日付は,本問において,すべて同じ年のものである。
ア.本件手紙が「甲などお手持ちの掛け軸について,お譲りくださるお気持ちはありませんでしょうか。」というものであり,これに対し,Bが4月4日,「100万円でよろしければ甲をお譲りします。」という返事の手紙を出し,この手紙が4月6日にAに届いたところ,AがBに,4月7日,「甲を100万円でお譲りくださるとのこと,ありがとうございます。」という手紙を出し,この手紙が4月9日にBに届いた場合,甲の売買契約は4月4日に成立する。
イ.本件手紙が「甲を100万円でお譲りください。」というものであり,これに対し,Bが4月4日,「100万円で甲をお譲りします。」という返事の手紙を出し,この手紙が4月6日にAに届いた場合,甲の売買契約が4月6日に成立する。
ウ.本件手紙は「甲を100万円でお譲りください。」というものであり,これに対し,Bが4月4日,「120万円でよろしければ甲をお譲りします。」という返事の手紙を出し,この手紙が4月6日にAに届いたところ,AがBに,4月7日,「それでは120万円で甲をお譲りください。」という手紙を出し,この手紙が4月9日にBに届いた場合,甲の売買契約が4月7日に成立する。
エ.本件手紙は「甲を100万円でお譲りください。」というもので,4月3日午後3時にBに届いたが,Aは,本件手紙を投函した後,気が変わり,4月3日午後9時に,「本件手紙が届くかと思いますが,事情により,甲をお譲り願う件はなかったことにしてください。」という内容の文書をファクシミリでBに送信し,当該ファクシミリ文書は同日時にB宅に届いた。しかし,Bは,4月4日,「100万円で甲をお譲りします。」という返事の手紙を出し,この手紙が4月6日にAに届いた場合,甲の売買契約が4月4日に成立する。
オ.本件手紙は「甲を100万円でお譲りください。」というものであったが,Aは,手紙を投函した後,気が変わり,4月2日午後9時,「本件手紙が届くかと思いますが,事情により,甲をお譲り願う件はなかったことにしてください。」という内容の文書をファクシミリでBに送信し,当該ファクシミリ文書は同日時にB宅に届いた。その翌日である4月3日,本件手紙がBに届いた。しかし,Bは,4月5日,「100万円で甲をお譲りします。」という返事の手紙を出し,この手紙が4月7日にAに届いた場合,甲の売買契約が4月5日に成立する。
ちゃんと理由付け含めて合ってないとダメですよ<●><●>
勘で当たったとかは「正解」に含まないですからね<●><●>
答えあわせ
正解肢 ウ、エ
解説
ア 契約の成立日は4月4日ではなく4月7日なので誤肢。
売買契約の成立には少なくとも①目的物と②代金額につき合意が必要であり、4月4日の時点ではBがAに対しオファーしただけにとどまるため。
イ 契約の成立日は4月6日ではなく4月4日なので誤肢。
承諾の通知は発信主義(民法526条1項)
ウ 契約の成立日は4月7日なので正肢。
4月4日におけるBのAに対する「120万円でよろしければ甲をお譲りします。」との返事の手紙は「申込みに変更を加えた承諾」であるため、4月4日におけるAのBに対するオファーを「拒絶」し「新たな申込み」をしたことになる(528条)。
この新たな申込みに対するAの承諾発信は4月7日であり、4月7日に契約が成立する。
エ 契約の成立日は4月4日なので正肢。
524条により「承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。」。
そのため、4月3日午後9時にAはBに対し申込の撤回をしているが、4月4日という「通知を受けるのに相当な期間」内にBは承諾の通知をAにしているので、Aの撤回は効力を生じず4月4日に契約が成立する。
オ 契約は成立していないため誤肢。
申込の通知は原則どおり到達主義(97条1項)。
手紙の到達は4月3日であり、効力が生じる前の4月2日にAはBに撤回の通知をしBに到達しているので、4月2日に申込の効力は失われている。したがって、申込みを欠くので契約は不成立となる。
おわりに
いかがでしたでしょうか?
勘で当たったのはダメと言いながら、契約の話なのである程度普通に考えれば正解が導けるのもあります。聞かれている知識も基本的ですし、ビジ検2級で出てきそうな問題です。
にもかかわらず、本番での正答率は高くなかった模様。聞かれているのは基本的な知識だけど、フェイクの入れ方とか事実の組み合わせ方が巧妙で難易度高いと思います。
「知ってるだけではあかんのやぞ。短答やけど頭使えよ。」
という試験委員からのメッセージが伝わってくるような問題でした。
過去問と向き合ってると「司法試験の問題ってよくできてるよなあ」と感嘆させられることしばしばですね。
本エントリを見て「ちょっと過去問やってみようかな」と思った方に、オススメならぬこれは避けたほうがいいぜ過去問をご紹介しておきます。

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避けた方がいい理由なんですが、正誤の理由付けがほんっとに雑です!
「判例は~としている」「●法●条による」とだけポンっと書いて終わりというのが多いんですが、それは解説になってない!と怒りを隠せません。
(大事なんは結論に至るロジックやろうと)
資格合格から遠ざかる主要要因に「テキストや使用教材に無駄なこだわりを出す」っていうのがあるので、あまり使っている教材変えたくないのポリシーなのですが。流石にちょっとなあ...という感じで。