すごい盛り上がりでしたね、ラグビーW杯。私のラグビーに対する興味関心はそこまで高くなく「おっ、盛り上がってるんや。ええやんええやん」ぐらいのスタンスでした。
要するに深く自分で情報を集めたりはしていないのですが、ツイッターを見ていると普段スポーツを見ていない人からもバシバシRTが流れてきますし、特に公式のツイッターアカウントをほんとによく見かけるなと感じていました。
適当にやっていて成功するほどSNSマーケは甘くなく、やはり凄腕の仕掛人がいたようです。
ラグビーワールドカップの公式SNSが話題な件。外部からきたやり手のCMOの手腕がすごいらしいけど、代表選手個人のSNS活用もすごいって話。
— みる兄さん(マーケの人ときどき二児のパパ) (@milnii_san) October 25, 2019
びっくりしたのがワールドカップ直前の急造ではなく、2010年代前半からコツコツ選手がやってたこと。
日々の継続が花開いたんだなー。https://t.co/razKQkFj1g
タイムリーな広告と監修の対立
で、記事中で気になったのがこちらのくだり。特にオレンジ部分。
個人的にも今回の大会で注目していたのが、ラグビーワールドカップ公式アカウントとラグビー日本代表選手のSNS活用のレベルの高さでした。
おそらくは、ラグビーというスポーツの放映権の権利関係が、サッカーや野球に比べると柔軟なんだと思いますが、とにかくラグビーワールドカップの公式アカウントは、大量の写真や動画をタイムリーに投稿しています。
例えば、スコットランド戦が終了したのは21時44分ですが、公式アカウントはなんと2分後の21時46分に勝利の瞬間の動画を投稿。
エンタメ業界に携わったことがある方なら分かっていただけるかと思いますが、広告やSNSでライセンス元の素材を使うときには必ずと言っていいほど「監修」という大きな壁が立ちはだかります。
素材を使った広告やツイートを作るのにも監修、監修、監修...と。
ひとつツイートするのだけでもとても時間がかかってしまいます。ツイッターはSNSの中でも特に鮮度が大事な媒体でタイムリーさが要求されるのですが、媒体に合ったプロモーションが難しくなりがちです。
※1
ライセンス元を批判しているわけでは決してありません。アニメやゲームはもちろん、スポーツも「イメージ」「世界観」「ブランド」がとても大切なビジネスです。なので素材に変な加工を加えられて本体の商品価値に傷が付くなんてことは万が一にも避けたいと思うのが当然で、厳しくチェックするのは当たり前の話です。
※2
エンタメ系の契約において「素材を使う場合はライセンス元の監修と承認を得る」旨の条項が入るのはもう当たり前、と思っていただいてOKです。
にもかかわらず、今回のラグビーW杯では放送直後に公式が動画を使ったツイートをしています。
これは間違いなく法務や契約担当の人が、放送局との契約締結時点でSNSマーケができる土壌を整えたなと。詳しい条項まではわかりませんがSNSでの、特にツイッターでのプロモーションを念頭に契約交渉を頑張られたのだろうなーと。
Jリーグでも同じ話があります
Jリーグに話を移します。DAZNとの契約時にディールブレイク覚悟で映像著作権について譲らなかったのは有名な話。
ずっと前から村井チェアマンが語ってらっしゃる部分なのですが、サリデザがコンパクトでよくまとまっているのでご紹介。
▼ Jリーグ×キャプテン翼 #2 反動蹴速迅砲(はんどうしゅうそくじんほう)
https://www.youtube.com/watch?v=ilCL2mChhF4この動画の反響に見られるように、映像の権利を販売する交渉をするにあたっては、映像著作権の保有は所与の前提に置いたんです。
—そうした厳しい条件を突きつける以上、交渉は一筋縄ではいきませんよね。
パフォーム社との交渉では、何回ものディールブレイクの危機がありました。
パフォーム社も日本法人はあります。しかし、最終的なリーガルチェックや判断となると、やはり本国で、となります。ロンドンと東京の時差もありましたし、交渉はタフでした。われわれJリーグは、契約した法律事務所とリーガルチームを組んで、激しい交渉を重ねていました。
条件の細かなところで衝突することが多々あり、一旦完全にディールブレイク(交渉決裂)したタイミングもありました。
マーケティング、特にプロモや広告の部分は権利関係が本当に複雑になります。質的/時的に適切なプロモを打ちたいのであれば、担当者のスキルだけでなく法務や契約担当者と協力し契約を整えるのが超重要なんですね。
表舞台に出ることは滅多にありませんが、話題になるほど成功したSNSプロモーションの裏に契約を取りまとめた優秀な法務パーソンがいらっしゃるのは間違いないなと。ブログに出した話で言うとラグビー協会やJリーグの中の人、すごいぜ。
プロモを支える戦略法務
事業の戦略遂行上で重要な施策を打つために法務としての打ち手を先手先手で実行していく。よく話題になる戦略法務や攻めの法務ってこういうことをいうんでない?
「事業の遂行に積極的に関与していく」みたいな抽象的極まりない話を振り回したり、ほぼ黒なグレーを無理やり白と言い切る力業をごり押しするのではなく...と思わされたニュースでした。
マーケティングは投資の意味合いが強い分野なので、マーケに従事するとつられて戦略性が身につきます。
プロモや広告関係は権利関係が複雑で処理が難しく、法務で契約をまとめた経験を活かすことができます。
戦略法務への第一歩にマーケティングいかがでしょうか。
とっても頭を使うのも多いのに机上の空論ばっかりで実践できない人が評価されないとか、似てるとこが多かったりもしますしね。
法務とマーケは密接に関連しあってて、マーケの効果を最大化するには法務を経験していて戦略的に契約を組み立てるスキルが大事だよなと思うのでした。
「前回のプロジェクトでは監修で苦労しちゃったので、過去の経験を活かして今回はこんな契約にしましょう」みたいな提案がしやすく、ビジネスサイドの人からもありがたがられることが多い分野です。
事業戦略を落とし込んでマーケティングの全体プランを組み立てて、マーケティング実行のために必要な契約も整える。法務以外の複数職種を経験することによるシナジーを超えて、法務とマーケを組み合わせてより洗練された法務パーソン/マーケターになれるチャンスが広がっています。
戦士と魔法使いを極めると魔法戦士になり、魔法使いと僧侶を極めると賢者になれる。そんなイメージです。突然も突然なドラクエたとえばなし。
以前から私は「法務プロフェッショナル」という存在に懐疑的なのですが、最終的に法務として大成したい場合であっても他職種の経験や知見は要るんだろうなと思いました。
さあ、みなさんもレッツチャレンジ。